肝臓がん
肝臓がんとは
肝がんとは、肝臓の中にできたがんのことです。細胞が正常なコントロールを受けなくなり勝手に増殖を続ける状態です。統計では、肺、胃、大腸に続く4番目に多いがんです。肝がんの中で一番多いものは肝細胞から発生した肝細胞がんといわれるものです。
肝臓がんの種類
肝臓の中の肝細胞ががんになってしまう肝細胞がん、肝内の胆管ががんになってしまう胆管細胞がん、またそれらが混じっているものなど色々あります。
また、他の臓器にできたがん(特に、大腸がん、胃がん、乳がんなど)が、肝臓に散ってがんを作ってしまう転移性肝がんなどがあります。これらそれぞれのがんの種類によって検査、治療が異なってきます。
日本では、肝がんというと約90%を占める肝細胞がんのことをいいます。以下、肝細胞がんについて説明していきます。
肝細胞がんの原因
日本の肝細胞がん患者さんの約80%にB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染が認められています。残りの20%はNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が占めるようになってきました。B型肝炎ウイルスが感染した後、慢性肝炎になった場合、B型肝炎ウイルスが肝細胞の遺伝子に入り込み、発がんの原因になるといわれています。そのため肝機能がそれほど悪くない時期(慢性肝炎の段階)から発がんを認めることもあります。
それに対して、C型肝炎は感染して20~30年後に、肝硬変という状態になってから肝細胞がんができることが多く見られます。ウイルスにより肝臓の細胞が壊れたり、再生したりを繰り返すうちに遺伝子に変化が起こり、がんができてしまうのではないかと考えられています。その他肝細胞がんの原因としては、アルコール性肝硬変や自己免疫性肝炎による肝硬変や原発性胆汁性肝硬変、さらに非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)による肝硬変が見られます。特にNASHによる肝硬変は増加の傾向にあります。
肝細胞がんの特徴
- 慢性肝疾患、特にウイルス性肝硬変を高率に合併する
- 肝内に多発しやすく、切除しても高率に肝内の別の場所から発生する(多中心性発ガン)
- 自覚症状に乏しく、癌が進行して初めて腹水、黄疸などの症状が出現することが多い
- 門脈に浸潤し閉塞しやすく、これに伴い肝不全が急速に進行したり、食道静脈瘤が急速に進行し破裂することがある
- 肝外への転移は比較的少ない。リンパ節、肺、骨、副腎に転移しやすい
肝細胞がんにかかる危険性の高い人
- B型、C型肝炎ウイルス保持者で肝硬変の人
- 肝炎が持続している人(GPT高値が続く人、慢性肝炎の人からも少ないが発生することあり)
- 長期飲酒歴(日本酒で3合以上10年)のある人
- 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の肝硬変になった人
肝細胞の診断
検査には血液検査と画像検査があります。
血液検査で特に重要なのは、AFP(アルファーフェトプロテイン)・PIVKA-Ⅱ(ピブカツー)などの腫瘍マーカーの測定です。肝細胞がんが発生、増大すると、多くの場合AFPなどの腫瘍マーカーが血液中に増えてきます。
画像検査には、超音波検査、CT検査、MRI検査、血管造影検査などがあります。CT検査、MRI検査で異常が認められた場合、病変を詳しく見るために造影剤を注射してCT(DCT)、MRI(DMRI)検査をします。
当院では超音波検査、CT検査を院内実施しています。その他は、基幹病院に検査予約をお取りしてスムースに検査が実施できるように段取りしています。(ダイナミックCT、ダイナミックMRIと呼ばれるもの)
では、肝細胞がんの時に上昇する腫瘍マーカーについて説明していきます。
基準値 | 説明 | |
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AFP | 10ng/ml以上異常 | 高値を示したとき肝細胞がんや睾丸腫瘍が疑われる。1回の検査値だけで診断するのは困難です。経時的に測定し、値が上昇する場合に強く疑われる。AFP-L3分画(AFPのレンズ豆レクチン分画)という肝細胞がんにより特異性のある腫瘍マーカーが使われることもある。 |
PIVKA-Ⅱ | 40AU/l以上異常 | 肝細胞がんに特異性の高い腫瘍マーカー。他の疾患で上昇することの少ない腫瘍マーカーだが、ビタミンK欠乏の時にも上昇する。ビタミンK欠乏をおこす抗凝固剤(ワーファリン)や抗てんかん剤、抗結核剤などを服用しているときは肝細胞がんでなくても上昇することがある。 特に、肝細胞がんの再発時にもよく上昇を示す。 |
肝細胞がんの治療法
治療 | 説明 | |
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1 | RFA(経皮的ラジオ波焼灼術) | ラジオ波電極針を超音波ガイド下に病変に刺して、がんを焼灼する治療法です。欠点は、がんの大きさ・数などの制限があること、超音波で見えにくい肝臓の部分の肝臓がんには、適応出来ないことです。長所は、的確に刺入出来て、焼灼出来れば効果は高く、また身体に与える副作用が少なく、肝切除・肝動脈塞栓術と比べ、短期間で社会復帰できることです。 |
2 | 外科的治療 |
肝切除は、がん部分を含めて肝臓の一部を切り取る方法です。最大の利点は、がんを治すという効果が一番確実なことです。欠点は、身体に傷をつけ、合併症も少なからずあり、手術に起因する死亡が1~2%あること、1~1ヵ月半に及ぶ入院とその後1、2ヶ月の自宅療養が必要であること、手術前と同じ社会活動に戻るには数ヶ月前後かかることなどです。最近は内視鏡下手術の導入により、入院期間は短縮傾向にあります。 肝切除の対象となる条件として、体力的には日常生活のすべてを他人の介助なくできる体力があること、肝機能的には強い自覚症状がなく腹水や黄疸がないことなど制限があります。もうひとつは、がんの進み具合はどの程度(がんの大きさ、数、分布状態など)かということです。肝臓の中でのがんの位置や肝機能の程度により、極めて容易な手術になることもありますし、反対に手術不能ということもあります。 |
3 | 肝動脈塞栓術(TAE) |
肝動脈塞栓術とは、がんに酸素や栄養を供給している肝動脈を、人工的に塞ぎ、がんへの酸素の供給をストップし、がんを死滅させる治療法です。この原理は正常な肝臓部分は動脈と門脈という2つの血流から酸素や栄養を受けていますが、がん部分は動脈のみから酸素や栄養を受けており、動脈を塞がれると肝がん部分は死滅するが正常な肝臓部分は生き残ることを利用したものです。 具体的には、太もものつけ根部分の動脈や腕の動脈に細い管(カテーテル)を挿入し、がんに行く動脈へゼラチンスポンジやリピオドール(油性造影剤)や抗がん剤などを注入し、その血管を詰まらせてしまいます。酸素を含んだ血液ががんに供給されなくなり、がんは死滅します。 この治療法は、がんの進み具合に比較的影響されず、適応範囲が広いのが特徴です。肝機能の制限もゆるく、腹水・黄疸がなければ施行可能です。一回の治療に要する入院期間は一週間程度と短く、副作用(腹痛・吐き気・食欲不振・発熱など)も2、3日で治まります。延命効果は多大ですが、完全に治りきる確率は現在のところ10%程度です。 |
4 | 経肝動脈化学療法(リザーバー留置による抗がん剤動脈注入) | がんにいく血管にカテーテルを留置し、持続的に抗がん剤を注入する方法です。外科的に開腹して入れる方法と内科的に入れる方法とがあります。カテーテルが入ると目的の血管に抗がん剤注入が簡単にできるようになり、外来でも行うことが可能になります。 |
5 | エタノール注入療法(PEIT) | エタノール注入療法とは、超音波像をみながら正確な場所に狙いをつけ、体表面から純エタノールを肝がんの部分へ注射し、アルコールの脱水凝固作用によりがん組織を死滅させる方法です。 |
6 | PMCT(経皮的マイクロ波凝固術) | 電子レンジに使われているマイクロ波を利用して超音波像を見ながら細いマイクロ波電極針を刺してがんを焼くマイクロ波凝固療法があります。一回に焼ける範囲が小さいことが欠点の1つです。 |
7 | 内科的治療(ソラフェニブ ネクサーバル®) | 内服薬です。分子標的薬の一種。外科的治療法を補う薬品として位置づけられています。 |
肝細胞がんの治療後の生活について
運動 | 努めて積極的にしていきましょう!スポーツにこだわらなくとも日常生活での行動・動作の中で足をよく使うということが大切! |
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食事 | 「偏食をしない、腹八分目、塩分控えめ」と基本とし、食べてはいけないものは特にありません!しかし肝臓の悪い人は糖尿病傾向があることが多いので、そのような場合には管理栄養士による指導を受けることもある。また、次に述べるアンモニアの高い方はタンパク質制限やアミノレバンEN、へパンEN等の内服が必要となることもあります。栄養指導を受けていただくこともあります。 |
便通 | 便秘は大敵!宿便は有害物質の供給源であり、これらの有害物質(アンモニアなど)は体調を崩す引き金となります。1日1~2回の軟らかい便通を確保することが大切! |
体重 | 毎日定期的にはかり、一定を保ちましょう!目的は異常な体重増加を警戒し、腹水などの貯留防止と肥満防止をすることです。1週間で2kg以上の増加が認められたら、すぐに担当医に連絡してください! |
肝細胞がんの予防
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染しないことです。
すでにC型肝炎ウイルスに持続感染している場合、インターフェロン療法・抗ウイルス剤治療をお勧めします。新しい治療法の開発が続いており、著効率が向上しています。インターフェロン療法を受けられた方は、たとえウイルスが消えなくても発がん率は低下すると報告されています。B型肝炎ウイルスに持続感染している場合は、ガイドラインに伴って核酸アナログ製剤の投与をお勧めします。
また、強力ネオミノファーゲンC、ウルソ、小柴胡湯などを投与し、AST・ALTの値を60IU/l以下に、現在では30IU/l以下を目標にコントロールすることにより肝障害の進行を防ぎ、ひいては発がんを抑制できます。
たとえ肝細胞がんができたとしても、早く見つけて早く治療しておけば、治療の選択の幅も大きく、治癒や長期生存を期待できます。決して放置することなく担当医の勧めにしたがって定期的な検査を受けるよう、そして早期発見出来るように心がけてください。