肝炎(原因)
肝炎の原因には、ウイルス性・薬剤性・アルコール性・自己免疫性などがあります。ここでは、ウイルス性肝炎の中のB型肝炎とC型肝炎について説明します。
1. B型肝炎
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染により肝臓に炎症が起こる病気です。急性肝炎の約30%、慢性肝炎の約20%がB型肝炎ウイルスの感染で起こるといわれています。
B型肝炎ウイルスは人の血液、体液を介して感染することが知られ、感染経路は、母親から子供に感染する垂直感染と、それ以外の経路による水平感染に分けられています。垂直感染の9割は、ウイルス感染は持続するものの症状は現れない無症候性キャリアとなりますが、約1割は慢性肝炎となります。慢性肝炎は、増悪・寛解を繰り返しながら肝硬変、肝がんへと進行する場合があります。一方、成人の水平感染では、急性肝炎となるか、あるいは症状が現れず、通常は治癒してしまいます。
感染経路
水平感染
輸血・注射・ハリ治療・入れ墨・セックスなどにより、キャリアの血液や精液に濃厚に接触した際に起こります。現在では、輸血に関しては血液銀行で厳重な検査がなされ、輸血で感染することはまずありません。又ディスポーザブルの注射針やハリが一般に使用されるので、注射やハリ治療で感染することはありません。
垂直感染
キャリアの母親から赤ちゃんに感染する母子感染のことで、母子感染の95%が出産時に産道を通過する際に起こります。近年では、出産直後からはじまる予防プログラムの普及によりほとんど感染は起こりませんが、母親の子宮内で胎盤早期剥離などのため、出産以前に胎児に感染してしまっているケースが稀に存在します。
自然経過・転帰
成人期の感染
発病しても急性肝炎のみで、慢性肝炎になることはまれです。最近、海外から日本国内に入ってきた、ゲノタイプA型のHBVの感染では、慢性化する例が見られるようになりました。また、ごくまれですが劇症肝炎を発症することがあるので、慎重な観察が必要です。
新生児・乳幼児期の感染
B型慢性肝炎のほとんどは、この時期にウイルス感染したものです。
B型慢性肝炎の20~30%が肝硬変へ移行し、さらに肝がんを合併する可能性があります。また時には、肝硬変を経ずに肝がんになる場合もあります。HBV感染からの肝がんは全体の10~15%を占めます。肝機能障害を示さない無症候性キャリアや慢性肝炎へ移行した場合でも、大部分は20~30歳代にかけて、HBe抗原陽性からHBe抗体陽性に移行するセロコンバージョンを起こし、肝炎は安定化します。しかし、セロコンバージョンに至った人の10%ほどが、HBVの変異株によって肝炎をぶり返すことがあります。したがって、HBe抗原が陰性化した慢性肝炎でも、定期的な肝炎検査・経過観察が重要です。
他人への感染を防ぐために
肝炎ウイルスに感染している人の血液が他人の身体の中に入ることによって感染しますが、ごく常識的な注意事項を守っていれば周囲の人への感染はほとんどありませんので、あまり神経質になることはありません。例えば、次のような事項を守るように心がけてください。
- 血液が付着する可能性がある、カミソリや歯ブラシなどの日用品の共用は避けましょう。
- 血液や分泌物がついたものは、しっかりくるんで捨てるか、流水でよく洗い流しましょう。
- 外傷、皮膚炎、あるいは鼻血などはできるだけ自分で手当てしましょう。また、手当てを受けなければならない時は、素人ではなく医療の専門家に手当てを受けましょう。
- 口の中に傷がある場合は、乳幼児に口移しで食物を与えないようにしましょう。
- 献血はしないようにしましょう。
- 性行為で感染することもありますので、配偶者がHBVに免疫をもっているかどうかを検査し、免疫がない場合には、あらかじめHBVワクチンを接種することをお勧めします。なお、ワクチンの接種については、医師に相談してください。
2. C型肝炎
C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)の感染により肝臓に炎症が起こる病気です。急性肝炎の約20%、慢性肝炎の約70%はHCVの感染により起こるといわれています。また、日本の肝がんの約80%はC型肝炎が原因といわれ、がんを高率に発症させることが問題となっています。
感染経路
輸血後肝炎
輸血や血液製剤による感染で、およそ半数を占めます。現在では、血液銀行での厳重なチェックにより輸血で感染することはまずありません。
散発性肝炎
残りの半数にあたり、ほとんどが、昔の予防接種やハリ治療、覚醒剤注射などによる血液感染とみられ、セックスによる感染は稀とされています。HCVは HBVに比べ、血液中のウイルス量がはるかに少なく、精液などの体液に出てくる量はきわめて微量だからです。HBVでは過去に高率にみられた母子感染も HCVでは2%前後にすぎません。
自然経過・転帰
C型肝炎ウイルスに感染すると急性肝炎が起こりますが、症状が軽いために気づかれないケースが多く、劇症肝炎となるケースはほとんどありません。急性C型肝炎の30%前後は自然治癒してしまいますが、70%前後は治癒せず慢性C型肝炎に移行します。
C型慢性肝炎の約30%が10〜30年で肝硬変に進行、さらに肝癌を合併します。HCV感染からの肝癌は肝癌全体の75〜80%を占めます。
他人への感染を防ぐために
- C型肝炎ウイルス(HCV)は、主に感染している人の血液が他人の身体の中に入ることによって感染しますが、ごく常識的な注意事項を守っていれば周囲の人への感染はほとんどありませんので、あまり神経質になることはありません。
- B型肝炎ウイルスの項の「他人への感染を防ぐために」に準じます。ただ、C型肝炎ウイルスに対して、ワクチンはまだ開発されていませんので、予防注射はありません。